第31回 「今秋」著者 村田 浩道


 秋も深まり高山ではすでに降雪もあり、いよいよ積雪期の始まりである。昨年は記録的な少積雪であったので今年の雪には期待している。
 この秋のガイド業務を振り返ると、お客様それぞれの勤務体系や職種によってかなり制約が異なる様子。なんとなくコロナ慣れしてきた感もあると勝手に感じてしまっているが、まだまだ以前の集客には戻らない。
 私の感覚的には登山からは離れてしまったが、自然に親しむことには関心が強くなり、旅と自然遊びをミックスした余暇の楽しみ方をする人口が増えてきている様子である。近所の釣具屋には土日になると早朝から駐車場は満杯、道路にも入店待ちの車両があふれる状況になっているし、近隣の波止場はとんでもない人混みだそうだ。ライトアウトドア、家族、ソロこのあたりが今後のキーワードになりそうである。

 登山に目を向けると、この秋シーズンのキーワードはやはりテント泊だったようで、コロナ禍の登山において、ソロテントは非常に心強い味方となっているようだ。結果的にテント泊初心者が多いのもこの秋の特徴である。私の事務所でもキャンプ講習やキャンプを絡めた登山プランは人気となっていて、なんと東京からのご予約もいただいている。

 紅葉時期の連休ともなれば、雷鳥沢など手軽で景色の良いキャンプ場には900張以上ものテントが張られ、トイレの前には長蛇の列ができていた。何と1時間待ちのお手洗いだったそうだ。もちろん涸沢なども同じ様子だったことだろう。
 学生時代に千葉にある某ネズミの国へ行ったときには、連れがトイレから1時間以上帰ってこないという事もあった。が、標高の高い場所でこの季節にその状態では凍えてしまうこともありそうだ。結果的にどこでもトイレの状態になってしまう。ルールやマナーという前にある程度の利用制限を設けるべきだと思うのは私だけだろうか。
 自然をより近く感じられ、家財道具一式を担いで登るテント泊登山は、充実感満点ではあるが、小屋泊にくらべるとよりシビアな行程管理や状況判断が求められる。さらに重量を担いで歩く体力も必要である。冬季テント泊ともなれば更にハードルは高くなるし、山岳域ともなればかなりの覚悟が必要になってくる。ぜひ経験者からのレクチャーや講習会を経て楽しんでもらいたいと思う。

 また、この秋は各地で熊騒動が頻発している。久しぶりに訪れた薬師岳山麓の折立キャンプ場は閉鎖になっていた。五色ヶ原では頻繁に熊が出るからテント泊は気を付けてくださいと言われた。地元の国道でも数回子熊に出くわし、久しぶりに登った大日岳という若狭の山では、下山近くの杉林で一心不乱に皮を剥ぐ成獣に出くわした。かなり近い距離だったのでさすがに焦ったが、向こうは気づいてない様子だったので、お客さんに目配せし騒がず抜き足でその場を離れて事なきを得た。
 一昨年が熊のベビーブームだったそうで、2歳になった熊が親元を離れ縄張りを得るために広域を移動し、餌場を確保するために里近くにも現れるそうである。

 我々も動植物も自然界で生きている。しかし保護、開発ができるのは人間だけで、自然を楽しむという感覚をもっているのも人間だけだろう。未知のウィルスや頻発する災害によって、命について今までになくリアルに語られるべき時代において、自然という生きる上で欠くことのできない最も貴重な資源の保護活用を、私たちガイドは多角的に行わなければならないと考えている。
※画像はイメージです。



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■著者紹介

村田 浩道(むらた ひろみち)
日本山岳ガイド協会認定ガイド、トレイルコーディネーター
NPO法人日本ロングトレイル協会理事・事務局長、NPO法人高島トレイルクラブ理事ほか。
高島トレイルをはじめ、全国のトレイル活性化事業にたずさわり、ロングトレイルとビジネスをテーマに活動している。また、禅宗僧侶として、禅と登山についての考察も日々おこなっている。