第30回 「テント泊」著者 村田 浩道


 引き続き山の不思議話である。

 緊急事態宣言が解除された5月下旬から今日までに、個人のお客さんからのガイド依頼は8割程度戻ってきたように思う。すでに紅葉シーズンのご依頼もいただいており、本当にありがたいことだ。ただ、少し今までとは様子が違う。日帰りや麓のビジネスホテルでの宿泊希望が増え、テント泊も増加している。
 以前は山といえばテント泊で、でかいリュックに仲間と分担したテント、食料、燃料、シュラフ、マットなど詰め込んで登った。雨だろうが雪だろうが、疲れていようが、眠かろうがテントを張り、自炊し、仲間と枕を並べて眠った。

 ガイド業を始めてからは、すっかり小屋のお世話になっているが、テント泊は山の基本であり、そこから学ぶ事がたくさんある。新型コロナウィルス感染症が発生して以来、お客様からテント泊山行の講習依頼や、テント泊縦走などの依頼が増えた。以前と違うのは「ソロテント」と「個別の食事」である。食事に関しては、ドライフードやアルファ米がすごく良くなり、格段に美味しくなったと思う。それに、ネット動画やSNSにはシャレた食事の画像がたくさんあって”こんな食事作ったことないけど・・・”と思いながら見ているガイドは私だけだろうか。

 テント泊となると小屋泊とは装備が変わり、いつもより重い荷物を担いで歩く体力も必要になってくるし、天候への対応や自身の管理も、より気を配ることが必要になる。考えてみれば、これぞガイドの出番で、ガイドらしい仕事なのかもしれないと考えている。
 場所によっては麓のオートキャンプ場などにベースを張り、近くの岩場や登山を楽しんだりできる。最近のオートキャンプ場は、トイレも綺麗で温浴があるところも多い。何といっても車が横付けできるので、食料や飲料は大型クーラーボックスで持込んで、「焼き肉」でも「おでん」でも屋台並みにでき、悪天になったら車に逃げ込める。
 このパターンはかなり好評だ。ただ回数を重ねるたびに調子にのって、食料や遊び道具が増えるのが難点ではある。快適なキャンプと対照的に、夏の沢では沢登りと渓流釣りを同時に楽しみ、タープだけを沢沿いに張り、夜露と雨風をしのぐだけのビバークスタイルだ。釣った魚を焼いたり山菜を食べたりと、よりワイルドな遊び方も人気だ。私の山のアイデンティティーは此処にあるので、このスタイルは大変楽しく得意分野のひとつでもある。改めて感じることは、自然界での遊びは多様であり、人生を豊かにしてくれるということだ。

 今日の社会情勢からみると、今後の生活や遊びのスタイルは、より自然志向へと向かうだろうし、仕事をする場所も野外やキャンプ場なども選択肢の一つになる。日本流アウトドアズがライフスタイルになり文化として根付く日は近い。



■バックナンバー

■著者紹介

村田 浩道(むらた ひろみち)
日本山岳ガイド協会認定ガイド、トレイルコーディネーター
NPO法人日本ロングトレイル協会理事・事務局長、NPO法人高島トレイルクラブ理事ほか。
高島トレイルをはじめ、全国のトレイル活性化事業にたずさわり、ロングトレイルとビジネスをテーマに活動している。また、禅宗僧侶として、禅と登山についての考察も日々おこなっている。