第24回 「烏ガ山 山頂」著者 村田 浩道


 先日久しぶりに、鳥取県大山山系の1つの山である烏ヶ山(からすがせん)に、お客様と登ってきた。この山は、大山の南東方向にそそり立つようにある鋭鋒で、1965年に発行された5円切手の左側にもチョコッと頭をだしている。大山に行けば目に入る鋭鋒なので、どうしても登りたくなり、残雪期に友達と登った記憶がある。その時はピークに至る最後の登りがカチカチの急斜面で、ビビリながら山頂に向かったのを覚えている。
 最近では(結構前だが)某シンガーソングライターが出演した、飲料水のCMロケ現場として少しザワザワとした場所だ。お客様との行く先を探していて、ふと思い出したので提案すると、「行きたい!」との事で向かうこととなった。

 当日は晴天で気温も上昇する予報。登山口近くに駐車して山を見上げると、思ったより雪がついていそうだ。念のためワカンも装備して林道を登山口へと向かった。まだ車両通行止めになっている林道を岡山方面へ歩くと、20分程度で登山口に到着した。今回は南側から登るルートを選んだ。登山口からしばらくは、火砕流の堆積からできた高原を稜線へと向かう。今年の積雪の少なさからクマザサ地帯は藪がかなり出ていた。残雪の上を行くと案の定、踏み抜き地獄。しかし、ワカンを装着すると藪がうるさそうだ。
 春山の踏み抜きに耐えながら、なんとか最初のピークへ到着した。ここからすこし下ったところのコルからが本番だ。アイゼンを装着してピッケルも出す。ここからは雪も少しは硬くなり、アイゼンを効かせて快適に高度を稼いでいくが、なにしろ鋭鋒なもので山頂が近づくにつれて急な登りとなる。

 そのうちに気温も上昇して、だんだん緩んだ雪が体力を奪い、お客様の足が遅くなってくる。この日の気温は予想以上に高く、いつもは綺麗に見える日本海が、気温の上昇により霞がかかってボヤッと見える程度だった。
 標高1,200m以上でも、日当たりの良いところは16度もあった。踏み抜きによる転滑落や捻挫などをケアしつつ、主稜線上のわずかに残った雪の上を慎重に進み、いよいよ山頂へ。
 烏のくちばしのようなその山頂の向こう側には、残雪を纏った大山が悠然と迎えてくれた。標高1,440mほどの山ではあるが、大山と弓ヶ浜の眺めは素晴らしい。いつものことながら、お客様との感動の共有が我々ガイドには最高の報酬となった。



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■著者紹介

村田 浩道(むらた ひろみち)
日本山岳ガイド協会認定ガイド、トレイルコーディネーター
NPO法人日本ロングトレイル協会理事・事務局長、NPO法人高島トレイルクラブ理事ほか。
高島トレイルをはじめ、全国のトレイル活性化事業にたずさわり、ロングトレイルとビジネスをテーマに活動している。また、禅宗僧侶として、禅と登山についての考察も日々おこなっている。