第15回 「秋の山」著者 村田 浩道


 「暑さ寒さも彼岸まで」のとおり、秋のお彼岸頃から里もだいぶ過ごしやすくなった。
日中はまだまだ暑いなと感じることもあるが、朝夕は確実に涼しくなり、うっかりすると風邪をひいてしまうこともある。
 標高3000mを職場としている山のガイドとしては当たり前だが、9月も20日あたりを過ぎれば降雪の可能性も十分にある。毎年思うことだが、山の秋は非常に短くて、残暑と秋と初冬がいっぺんに訪れる感じもする。山頂付近は雪で白く、その下は紅葉が鮮やか、さらに低いところは木々の緑という三段紅葉が見られることも稀にある。

今年の秋の三連休は、お彼岸前は天候が良く、お客様と北アルプスの南岳から北穂高までを縦走してきた。南岳の小屋では素晴らしい夕日と雲海のマジックアワーを見ることができ、お客様も非常に想い出に残る山行となったと喜んでいただいた。対してお彼岸の三連休は台風の影響で悪天候・・・。(まぁ、私はお彼岸時期には山の仕事は入れてないのだが・・・)
 山のガイドたちにとっては辛い天候である。週末ごとに悪くなったりすると、それはもう失業状態である。いかに上手く悪天候から逃げてガイディングするかもガイドの腕の見せどころではあるので、台風シーズンは何かと悩ましい。
 お客様の残念そうな顔がちらつき、何とかなるかと計画を時間単位で天気予報に照らし合わせたり、その一方で自然に立ち向かって良い結果を得られた者はいないな・・・と山行にブレーキをかけたり。はたまた先輩ガイドからは「天気予報は見ちゃダメだよ、山の天気は現場に行ってからしか判断できないから」なんて言う独特な意見をもらったりもする。
 どれだけ経験を積んでも同じ条件の山行はないもので、これが登山の奥深さと素晴らしい感動を呼ぶのだろう。どんなに腕の良いガイドのガイディングも、自然が織りなす風景の前では言葉さえ余分なものになるのである。


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■著者紹介

村田 浩道(むらた ひろみち)
日本山岳ガイド協会認定ガイド、トレイルコーディネーター
NPO法人日本ロングトレイル協会理事・事務局長、NPO法人高島トレイルクラブ理事ほか。
高島トレイルをはじめ、全国のトレイル活性化事業にたずさわり、ロングトレイルとビジネスをテーマに活動している。また、禅宗僧侶として、禅と登山についての考察も日々おこなっている。