第9回 「地元(高島)の山の現状」著者 村田 浩道


 私の地元滋賀県高島市には比良山系という山脈がある。琵琶湖の西岸に広がり標高は1,000ⅿ前後の山岳地帯である。そこにはスキー場や観光施設もあり、無積雪期なら丸1日あれば縦走も可能だ。しかし、冬季には急峻な谷に重く深い積雪があり、関西の岳人達には雪山訓練や、険悪な谷登りの場所として馴染みの山域である。近年はこの山域での遭難事故が多くなっている。その多くは道迷いからの遭難であるが、その発生にはなんとも複雑な現実があるのだ。

 2018年の滋賀県内山岳遭難事故は、3年連続で過去最多を更新したと県警から発表があった。その中でも比良山系が一番多いのである。考えてみれば、北アルプスなど3,000ⅿを超え登るのに数日かかる山域へ行くときには、それなりの覚悟と準備をするし、自分に経験がなければ一人では近寄ることもできないのが実際だと思う。
 しかし、比良山系の様な里山に近い山域では、気軽に立ち入ってしまう人がなんと多いことか。私の所属する日本山岳レスキュー協会が捜索し発見した方も、趣味である滝の写真を撮りに入山し遭難事故にいたった。風景写真や山菜取り、山野草観察などを楽しむ方は以前からいたはずだし、まして山の情報などは一昔とは比べ物にならないほど入手しやすいと思う。

 それでもこの山域で年々遭難事故が増える背景には、地域の高齢化が少なからず関係しているようだ。以前も捜索が終わってから立ち寄った飲食店のオーナーは、地域の山岳会に所属しており、以前は登山道の整備や安全登山講習会開催などに、積極的に山や登山文化に関わってきた。しかし、もう道具や資材を持って山に入る体力もないし、そのうえ山岳会メンバーは高齢になり、講習会などの計画もしなくなったと話してくれた。だから山は荒れて登山道は不明瞭になり、気軽に知識を得る機会も減った。それが結果として、遭難事故の増加につながっていると考える。

 わたしが所属する日本山岳レスキュー協会では、警察や消防、地域の山岳会などへ遭難救助訓練や安全登山研修を行い、山岳遭難事故を予防し遭難事故からの生還者を増やそうという活動をおこなっている。だが、実際は遭難者の捜索活動に出動することが一番多いのだ。少ない手がかりをつなぎ合わせ、現地の地形、時間軸や当日の天候なども考慮し捜索をするが発見できない場合も多い。自然を愛し登山を楽しむというライフスタイルの中には、自然を守り山を愛することも含まれる。登山文化がこれからも長く続いていくためには、われわれ登山者が現状をしっかりと把握し、必要な協力を惜しまずにおこなう文化を醸成していかなければならないと思っている。
※画像は本文とは無関係です。


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■著者紹介

村田 浩道(むらた ひろみち)
日本山岳ガイド協会認定ガイド、トレイルコーディネーター
NPO法人日本ロングトレイル協会理事・事務局長、NPO法人高島トレイルクラブ理事ほか。
高島トレイルをはじめ、全国のトレイル活性化事業にたずさわり、ロングトレイルとビジネスをテーマに活動している。また、禅宗僧侶として、禅と登山についての考察も日々おこなっている。