第8回 「縦走登山」著者 村田 浩道


 山登りにも様々な楽しみ方がある。目的の山頂に登ってお昼をたべるとか、いかに難しいルートからアプローチして山頂に向かうか。あるいは、目の前の岩壁をどう攻略するか、沢登などで季節毎の山登りも含めると、その楽しみ方は多種多様である。縦走というスタイルもその一つで、国内の山々にはたくさんの縦走ルートがある。自分の生活スタイルに合わせて泊数とルートを決めて、山小屋を使うのも良いしテント泊をすれば行動範囲はさらに広がって、ルートよっては長大なロングトレイルが楽しめる。

 そんな縦走路の中でも、雑誌などでもよく取り上げられハイカー憧れの縦走路の一つとされてるのが、西穂高岳から間ノ岳、ジャンダルムを越えて奥穂高岳へ至るルートだろう。厳しくも美しい岩場の連続、馬の背に代表されるナイフリッジの通過など、我々ガイドにとっても腕の見せ所といったところである。
 そんなルートに秋の3連休に仕事にでかけた。お客様7名ガイドは3名、先輩ガイド2名と私である。新穂高ロープウェイは紅葉の季節でもあるので超満員、当然小屋も超満員だろうと思った。予想どおり西穂山荘へ到着すると、小屋前の広場は空きスペースがないほどの登山者だ。受付をすませて小屋に入ると、廊下の荷物棚からリュックがあふれ廊下を歩くこともままならなかった。

 山小屋前の庭にわずかなスペースを見つけ、お客様と談笑していると我々のグループに呼び出しがかかる。なんだろうと思い受け付にいくと「晩御飯は6回転目で用意しているのですが、メインのおかずが足りなくなってしましました・・・別のものでよいですか?」との話。小屋からはお詫びのビール券もいただき、お客様も喜ぶだろうし問題ないかぁ・・・。と、ここで少々悪知恵が働いた。
 今回のように混むと、3人で一枚の布団を使うようなことになるのだが、談話室を借りてゆっくり寝かしてくれないかと交渉をしてみた。敷布団と毛布一枚あればしのげそうだ。交渉成立で談話室での就寝を許された。混雑をさけゆっくり休めそうで、寝不足で翌日の仕事に支障がでることも避けられる。
 食事をすませて就寝時間を迎え、談話室に向かうとなんと床一面のブルーシートに敷布団、毛布が山積み・・・。どうやら我々のあとからも大勢のお客様が来られて、ここも満員のようだった。これだけ人が詰め込まれると、慣れているはずの小屋もがなかなか寝れない。先輩ガイドも同じ様子で、ウトウトしながら何度も寝返りをうち、長い夜を過ごしていた。急に「おい、おい」と起こされる。時計は深夜0時、「コーヒー飲もう」「は?」しかたない、コーヒーを飲む。飲み終わると「いつまで起きとんねん、はよ寝ろ!」と、ショートコントのあと再び眠りについた。
 夜半の3時に起床して、3時半に出発。すでに多くのパーティーが出発しているようだった。天候もまずまず、奥穂高山荘へは10時間程度の予定だ。出発して1時間半あまり、西穂高独標には多くの登山者が登っていた。ここから西穂高岳までのルートは混みあう予想をしていたが、そこから先へもカラフルなウェアの列が続いている。追い抜き、すれ違いなどが容易にできるルートではないため、アッという間に渋滞になる。うーん、メディアに取り上げられて登山者が増えるのは喜ばしいが、このルートで渋滞となると時間的になかなか厳しいし、特に落石事故のリスクが高くなる。落石にはいつも以上に神経を張り巡らしてのガイディングとなった。

 中間地点あたりである天狗ノ頭あたりでは、逆層になったスラブ状の岩山に一本の長い鎖がかかっているのだが、奥穂高側からの縦走者と重なって見ていても危ない。先輩ガイドからの「お~い、交通整理」の合図で上下線の交通整理をおこなう。まぁ、大体の人数を見て、大声で「こちらから10人程度登りますから、その後でそちらから10人ぐらい下りてくださ~い!」「はい、そこまでで一旦止まってくださ~い!」てな感じである。なんとここを通過するまでに40分ぐらいの待ち時間だった。
 この後クライマックスのジャンダルムを越え、馬の背を通過して奥穂高岳山頂に立ち、奥穂高山荘に入った頃には12時間以上経過していた。なんとも長い行程であったが、無事に小屋へ入れて一安心である。しかし、ここでも大混雑の山小屋で、居合わせたガイドに聞くと、寝る場所がないのだと言う。受付では屋根裏から乾燥室まで満員なんですと説明された。結果的には、ガイドばかり詰め込まれた部屋に、縦長2人分スペースを確保して、掛け布団を半分に畳んだものを2枚敷き、掛け布団を1枚と毛布1枚で先輩2人分。私は掛け布団を半分折り畳んだ間に挟まって、廊下の壁沿いに長くなって眠った。

 この3連休はどこの山域も大勢の登山者で賑わったようだ、業界的には喜ばしいことだが、反面事故の危険も増える。よく登りたい山と登れる山は違うと言われるが、縦走ルートもそのとおりだ。ネットなどでは良い景色とカッコいい岩峰などの画像とともに、簡単に短時間でクリアできました的な記事を見ることがあるが、あまりにも無責任だと感じる。地域の山岳会や、登山用品店、ガイド協会などが開催する講座などに参加いただき、ぜひしっかりとした登山知識を得て、安全に登山を楽しんでもらいたいと思う。


■バックナンバー
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山岳ガイドの四方山話 29

■著者紹介

村田 浩道(むらた ひろみち)
日本山岳ガイド協会認定ガイド、トレイルコーディネーター
NPO法人日本ロングトレイル協会理事・事務局長、NPO法人高島トレイルクラブ理事ほか。
高島トレイルをはじめ、全国のトレイル活性化事業にたずさわり、ロングトレイルとビジネスをテーマに活動している。また、禅宗僧侶として、禅と登山についての考察も日々おこなっている。