第7回 「観光案内」著者 村田 浩道


 あたり前の話だが、山の中をガイディングすることが山岳ガイドの仕事である。しかし、稀にそうでない仕事も舞いこんでくるものだ。もう何年も前のことになるが、先輩ガイドから一本の変わった電話がかかってきた。
「3日後の仕事で、山には入らなくていいんだけど、日程空いてないか?」
 なんだか馬鹿にしてんのかと言いたくなるが、ガイドライセンスを取得したばかりでもあったし、何より日程がガラ空きだったもので恐る恐る内容を聞いてみた。先輩の話では、大手旅行社の関西支社から東京本社へ転勤になった方からの急な要請だそうで、そのころ一大ブームとなっていた天空の城「竹田城」を案内しろということだった。

 「あの・・・私は観光ガイドではありません・・・」と勇気をだして伝えてみた。「まぁ、とにかく頼むよ。また担当の人から連絡あるから」と電話は切れた。
 勢いで引き受けてしまった。ところで竹田城ってどこにあるんだ?誰の城なんだろう。全く知らない。まずいな。いろいろと考えていると担当の方から連絡があった。
 「急な依頼を引き受けていただいてありがとうございます!」ひまだったから仕方ない。パンフレットにはガイド付きの表記はないのだが、Webサイトにはガイド付きと載っていて、お客様からの指摘があったそうだ。とにかく引き受けた仕事だ、しっかりと準備していこう。しかもこられるお客様はきっと歴史好きだ。しかし本当にインターネットってすばらしい。さっそくGoogle先生に全てを教えていただいた。

 当日は少し雨模様だった。早朝に、兵庫県朝来市の竹田城へ向けて出発。昨日はリュックに何をつめたら良いのやら迷ってしまった。SAで休憩していると、ツアー添乗員から電話がかかってきた。挨拶をすました後に一つお願いをした。「私は山岳ガイドであって観光ガイドではないので足りない部分がたくさんあると思います。お客様へもご理解いただけるように、よろしくお願いします」と。実はこのことがお客様の不安を煽ってしまうことになるのだが・・・。

 現場に着くとさすがに人気の観光地だけあって、大勢の人出だった。お土産売り場や飲食店も新たに整備された様子で、大きな駐車場を中心に円形に配置されていて、どの店舗も賑わっていた。お客さまのバスが到着して挨拶を済ますと、添乗員からお客様が不安になっているので説明してくださいとのこと。どうやら山岳ガイドが来ると、バスの中で伝えたら、竹田城とは山岳ガイドがつかないと行けないような険しい場所なのかと、車内でざわついてしまったらしいのである。なるほど確かにそうもとれる状況だ、私の立場と、この状況を簡単に説明して、お客様に安心していただいた。
 駐車場からわずかに登り、里山へ入から城へと続く道を歩いた。やがて趣のある石垣が見えると、オレンジ色のジャンパーを着た方たちがチラホラと現れた。背中には“竹田城ボランティア観光ガイド”と書かれている。きっとここ方たちの方が竹田城の知識は豊富のはずだな。ちょっと気まずさも感じながら、付け焼刃の知識でつなぎながら、お客様と場内の石垣の間を登った。しばらくすると、城下を一望できる天守閣の石垣跡へ到着した。
 ちょうど穴太衆の技術を引き継ぐ、建設会社による石垣修繕が行われていた。私と同じ滋賀県の建設会社で、この石積みの技術は海外の城郭の修繕などにも使われているらしい。作業を横目に城内を散策して、撮影スポットがある立雲峡へと移動して、今日の仕事は完了となった。

 これ以来このようなガイド依頼はないが、少しは役にたてたのだろうか。同じガイドでも、全く違う要領とテクニックが必要だった。大自然の綺麗な景色で癒され、山頂に立てば充実感や感動を得ていただくことができる山のガイドは、豊かな自然環境に恩返しをしないといけないとつくづく感じた。


■バックナンバー
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山岳ガイドの四方山話 29

■著者紹介

村田 浩道(むらた ひろみち)
日本山岳ガイド協会認定ガイド、トレイルコーディネーター
NPO法人日本ロングトレイル協会理事・事務局長、NPO法人高島トレイルクラブ理事ほか。
高島トレイルをはじめ、全国のトレイル活性化事業にたずさわり、ロングトレイルとビジネスをテーマに活動している。また、禅宗僧侶として、禅と登山についての考察も日々おこなっている。