第6回 「雪山研修会」著者 村田 浩道


 我々ガイドも、年間に数回研修をおこなう。それぞれの所属協会での定例研修や、有志が集まって行うものもある。使わない技術は錆びるし、緊急時の研修や訓練は欠かせないものだ。個人的には山の技術だけでなく、接客技術や語学の研修も必要だと感じているが、知る限り現在取り組んでいるところはないようだ。

 2年ほど前、2月の乗鞍岳を会場にした、冬季ガイド研修会に参加した。堅い雪面や急斜面でのアンザイレン時の確保技術、自分自身のピッケル、アイゼン技術の向上が主な目的だ。参加者は関西や信越、東海方面からもあり総勢8名ぐらいだった。
 乗鞍高原スキー場の駐車場に集合して装備を整えて出発。ゲレンデトップまでリフトを乗り継ぎ、あとは山スキーやスプリットボードでハイクアップする予定だ。スキー板の滑走面にシールを張り付けて、雪の斜面を登れるように準備する。ようやく完了してさあ行くぞと出発、少し歩いたとこで、「おーい!誰だ!リュック忘れてるぞ‼」信じられない、自分だった・・・。

 スキーとボードを使う者がほとんどだったが、ワカンでついてくる強者も2名いた。畳平までの切り開きは結構な急斜面がつづき、キックターンでジグザグに登るのもけっこうな技術がいる。ワカンが意外と正解かも・・・などと思っていると、後ろのガイドが話しかけてきた「3人ほど前の人のスキー板って、シールがついてないけど?」まさか、この急斜面をシールなしで登れるわけがない。しかし、じっと見てみると確かについてない。他のみんなも気づきはじめた頃、ようやく急登りがひと段落して休憩をとった。
 ここで当人に確認してみると、なんと懐かしいウロコ板3ピンのテレマークスキーだった。ここまでよく登ったものだ、しかしさすがにここまでと感じたのか、リタイアするという。まぁ、研修会だし自由にすればよいのだが、ガイドとしては少々見通しが甘かったな!などと、リュックを丸ごと置き忘れた者に言われたくないだろうが・・・。

 畳平まで到着して研修会の行程をこなし、位ヶ原の山荘まで一気に滑って下りるのだが俗にいうモナカ雪。表面は堅いのだが、その中はフカフカなのである。これはとにかく滑りにくい、何度か転ぶ。自分がこれほど下手だったかと悲しくなる頃に山荘に到着した。
 乾燥室で装備を整理すると、ない・・・ピッケルがない。こんなこと今までなかった、リュックにピッケル・・・あり得ない。とにかく探さないと、明日の研修に参加できないことになる。
 慌てて転んだ記憶をたどり、みんなのシュプールの跡にピッケルを探しに出かけた。白い雪面の中から、一本のピッケルを見つけるのは簡単ではない、ただ少し思い入れのあるピッケルだったから、なくしたくなかった。1時間近く探しただろうか、なんとか見つけて山荘にもどると、仲間が私を助けに行こうと準備をしているところだった。ありがとう!やっぱり山仲間は素晴らしい!この極寒のなか、自分のために本当に感謝!イイ奴ばかり!と思った次の日、私は仲間からロストマンと呼ばれていた。
※画像はイメージです。


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■著者紹介

村田 浩道(むらた ひろみち)
日本山岳ガイド協会認定ガイド、トレイルコーディネーター
NPO法人日本ロングトレイル協会理事・事務局長、NPO法人高島トレイルクラブ理事ほか。
高島トレイルをはじめ、全国のトレイル活性化事業にたずさわり、ロングトレイルとビジネスをテーマに活動している。また、禅宗僧侶として、禅と登山についての考察も日々おこなっている。