第5回 「厳冬のテント泊」著者 村田 浩道


 厳冬期の山は厳しくもとても美しく、多くの人々を魅了する。快晴の雪山などは、一度でもその美しさを体験しようものなら、誰でも虜になってしまうだろう。
 だが多くの山小屋は冬季休業なので、お客様と楽しめる山域は限られてくる。その中で八ヶ岳などは、山小屋をベースとして本格的な雪山を楽しむことができる。
 3年ほど前のこと、先輩の山岳ガイドと2人で、お客様5名を1月の赤岳へご案内の予定があった。温かい山小屋で美味しいご飯を食べて、八ヶ岳の青い空を楽しむ。仕事とはいえ贅沢な時間を過ごせそうだと楽しみにしていたが、彼の「テント泊でね!」の一言で気分は急変・・・まぁ、ガイドの仕事を始めるまでは山といえばテント泊が基本ではある。
 久しぶりの厳冬期テント泊で、お客は5名。さらに先輩ガイドと2人となれば、当然荷物も私・・・道具部屋から80Lリュックを引っ張り出して、テント、シュラフ、食料、燃料など詰め込んだ。やはり重たい・・・。30kgは久しぶりに担ぐ重さだった。初日は美濃戸口を出発して、テント場まで4時間ほどだ。お客様にはしんどさを悟られないように余裕のふりをしてみたものの、体力が落ちたなと実感した。

 行者小屋のテント場に到着して設営し、しばしの休憩後に晩御飯の支度にかかる、八ヶ岳の凍てる寒さの中、出来上がった温かい鍋を全員でつついて談笑の時間。狭いテントの中は湯気と熱気が充満した。このひと時がテント泊の醍醐味だろう。楽しい時間を過ごしした後、テント内が冷えてしまわないうちにシュラフにもぐり込んだ。
 夜中に用足しにテントの外へ出ると満点の星空で、今日の山行は良さそうだ。少し冷たくなったシュラフにもぐり込んだ。
 早朝4時に起床して、朝ごはんの準備にかかろうとした・・・ん?あれ?ないな!昨日の鍋の残りがない。朝は残りの鍋にご飯を入れて、定番のおじやにする予定だった。テントの中にこぼれないように置いておいたのに、と探していると、お客さんもごそごそと起きだした。「昨日の鍋知りません?」「あ、外に出しときました、こぼれたらダメなんで。朝はおじやですよね!」と。間もなくカチコチに凍った鍋が、テントとタープの間から発見された、しっかりと蓋も凍りついてして開けるのも一苦労だった。
 少々の想定外はあったものの、この日は天候にも恵まれて、とてもよい冬山登山となった。
 初めて冬山にチャレンジしたお客様、初めて赤岳に登ったお客様、初めての冬山テント泊で、朝ごはんをカチコチにしてしまったお客様。山岳ガイドには、お客様の初めてをサポートすることで得られる充実感と感動があることを、改めて確認できた山行となった。


■バックナンバー
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山岳ガイドの四方山話 2
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山岳ガイドの四方山話 29

■著者紹介

村田 浩道(むらた ひろみち)
日本山岳ガイド協会認定ガイド、トレイルコーディネーター
NPO法人日本ロングトレイル協会理事・事務局長、NPO法人高島トレイルクラブ理事ほか。
高島トレイルをはじめ、全国のトレイル活性化事業にたずさわり、ロングトレイルとビジネスをテーマに活動している。また、禅宗僧侶として、禅と登山についての考察も日々おこなっている。