平成18年度トム・ソーヤースクール企画コンテスト支援50団体の企画より、
その活動や実施のレポートを順次掲載していきます。


  活動レポート    

NO学校・団体名都道府県企画の概要
2 NPO法人 コミュニティシンクタンクあうるず 北海道 「君はどっちを応援する? ~蝦夷の国、平成ザリガニ戦国時代の攻防~」
専門家とともにニホンザリガニの生息する河川にでかけ、観察と学習を行い、ザリガニの同定方法、発見したときの対処法、記録法についても学ぶ活動。また、啓発活動としてシンポジウムなども開催する。

「君はどっちを応援する? ~蝦夷の国、平成ザリガニ戦国時代の攻防~」
ウチダザリガニ捕獲作戦バスツアー [10/21]  .


 日  時:平成18年10月21日(土) 9:00~16:00
 場  所:然別湖(北海道河東郡鹿追町)
 参加者:子供24名、大人21名

 <湖底に蠢くウチダザリガニの大群>

“うわぁ~、すげぇ~、かかってる!かかってる!”
湖畔の湖底に仕掛けておいたカニ籠を引き上げる子供たちから喚声が湧き起こる。
つかまえたザリガニの数は全部で149匹。予想通りの大漁となった。

罪なきウチダザリガニと罪なき人々が引き起こしてしまったニホンザリガニ存亡の危機。
われわれ人類は、かくもデリケートな自然生態系とどのように向き合っていくべきなのか
答えを出すのは簡単ではないが、一人一人が考えることがまず大切なのである。
ウチダザリガニを掴まえ、個体の状況を観察し、そして最後はおいしくいただいてしまおうというこの日のプログラム。
初冬の十勝然別湖で行われた「ウチダザリガニ捕獲作戦バスツアー」を速報でレポートする。

 <いざ、雪がちらつく高原の湖へ>

ウチダザリガニとニホンザリガニ。この2種類のザリガニが今日の主役である。
しかし、一方のニホンザリガニは絶滅危惧種であり
専門家が山奥から掴まえてきた3匹が目の前の水槽の中にいるだけである。
われわれの使命は、ウチダザリガニの駆除であり
それによって少しでもウチダザリガニの増加を食い止め、願わくはニホンザリガニが棲む
かつての然別湖に戻って欲しいと夢見ているのである。

北海道東部、十勝地方の山あいにかつて秘境と呼ばれた湖、然別(しかりべつ)湖がある。
大雪山国立公園の南東に位置するこのあたりは、近年 観光地としてもずいぶん知られるようになったが
天然記念物のシマフクロウや氷河期の生き残りと言われるナキウサギなどの貴重な動植物がたくさん棲んでいる。
湖にもオショロコマなど珍しい魚が棲んでおり、基本的に禁漁となっている。
さて、北国の短い夏も過ぎ去り、初雪の便りも聞かれる10月下旬
NPOあうるずの呼び掛けに応じた参加者を乗せたツアーのバスは、十勝の中心都市、帯広の中心街を出発して
1時間あまりをかけ目的地である然別湖に向かった。
今この湖で、生き物たちの熾烈な生存競争が繰り広げられ
そのことがわれわれ人間に対する大きな課題として突きつけられていることを子供たちはまだよく知らない。
午前10時半。総勢50人あまりがバスを降り、防寒着に身を包んで湖畔のテントにやってきた。

 バスの中はザリガニ教室 / 小雪舞う然別湖に到着

 <奥ゆかしきニホンザリガニの悲哀>

ザリガニを見たことがないという人はほとんどいないであろう。
それほど身近な存在であり、幼稚園や保育園でも、ザリガニは格好の遊び相手だ。
時にザリガニは豊かな自然の象徴でもあり、命の存在を語りかけてくる生きた教材なのである。
しかし、そのザリガニ、正しくはウチダザリガニが、元はと言えば外国から人為的に持ち込まれ
それ以前にそこに暮らしていた在来種を駆逐し、我が物顔にはびこっている姿であると知ったとき
我々はどう対処したらよいのであろうか。
全国各地で外来種の野生化による在来種の減少が大きな問題となっているが、
北海道の河川や湖沼におけるニホンザリガニもその一つである。
かつて北海道の山河にごくあたりまえのようにいたニホンザリガニは、今ではだいぶ姿を消し
代わりにウチダザリガニが棲みついているのである。
ニホンザリガニはウチダザリガニに勝つことはできないのだろうか・・・。
残念ながら、ニホンザリガニはまるで勝ち目がないという。
生息環境を同じくしていながら、ウチダの方が、体がずっと大きいし(圧倒的な力の差!)
そして成熟期間が短く卵の数も多いのだ(圧倒的な繁殖力の差!)。
だからニホンザリガニは餌を奪われ、棲家を奪われ、時には直接食べられるという憂き目を見ながら
住み慣れた北海道の地を追われようとしているのである。
主催者であるわれわれNPOあうるずは早くからこの問題に注目し
内外の専門家との情報交換、市民を対象としたシンポジウム等を行ってきた。
しかし、水面下では今日も熾烈な生存競争が繰り広げられ
ニホンザリガニはほとんどなす術もなく絶滅の危機に瀕しているのである。
これを食い止めるにはどうすればよいか。
それにはまず、少しでもウチダザリガニの増殖を抑える以外に方法はないのである。
日本には、ザリガニの仲間が3種類いる。アメリカザリガニ、ウチダザリガニ、そしてニホンザリガニである。
この内、前2種はいずれも北米原産の外来種であり、ニホンザリガニだけが唯一の固有種である。
しかし、ニホンザリガニは もともと北日本
具体的には北海道と青森、秋田、岩手の北東北3県にだけしか分布しておらず
国内でもその存在はあまり知られていない。
アメリカザリガニが日本に運ばれてきたのは明治期。食用ガエルの餌として持ち込まれたらしい。
以後、それまでザリガニが生息していなった本州以南の日本各地に急速に分布域を拡大し
今ではすっかりあたりまえの存在となっている。
ザリガニは子供たちにとっても身近で楽しい生き物であり
ザリガニと戯れることは自然体験の一つであるといっても良いであろう。
全国各地で外来種が問題となっている中、
環境省は今年、このウチダザリガニを特定外来生物に指定した上で積極的な駆除に乗り出し
生体の移動も禁止する措置をとった。
然別湖においても今年既に数回の駆除を行っており、今期最後の捕獲が10月23日から行われようとしていた。

 <ザリガニ現る 盛り上がる身体測定>

仕掛けたカニ籠は全部で20個。
ザリガニがいそうな場所を見つけて籠を仕掛けておいた。
ザリガニは夜行性。前日の夕方に仕掛けておくと翌朝にはかかっているという寸法だ。
籠の中にはサンマの切り身を入れておく。なるほど、ザリガニは肉食性でもあるのだ。
さあ、いよいよカニ籠を引き上げる。緊張と期待の一瞬だ。

籠は向こうの桟橋の辺りから反対側の大木のあるところまで、およそ100mほどの区間のあちこちに仕掛けてある。
5つの班に分かれて、それぞれリーダー役の大人が張り付き、子供たちが紐を手繰り寄せる。
桟橋の下にはたくさんいるはず、との読みから覗いてみると  おや、何もいない!?
もう一つ上げると、3匹かかっている。
ところが、湖に流れ込む小川の向こうはどうだろう。歓声の中から運び出された籠の中が真っ黒だ。
場所によってずいぶん水揚げに差がある。
後で聞いた話だが、桟橋のあたりは、前回の駆除ではどっさりかかったらしく
それがつまり、かなりの個体を駆除した結果と言えるらしい。
とすると、北海道の湖沼では既にウチダザリガニが全域にはびこってしまったところもあると聞くが
このような駆除を行えばかなり個体数を減らすことが可能ということかもしれない。

籠からザリガニを移す。ウニウニとはさみを動かし、放せ、放せと抗議する。
早速、バケツに移し、個体の計測と観察に移ろう。
しばし、寒さを忘れてバケツを覗き込む。ノギスと野帳が配られ、班毎に計測が始まった。
リーダーや環境省の職員が道具の使い方を説明する。
一応熱心に聞いてはいるが、やってみなければわからないのがこの世界。全ては体験することが大事。
ザリガニとて生き物。机の上に置かれたらまず逃げる。
それを固定するのはなかなか難しい。
まず、測るのは頭部の先から尾の先まで。これが全長。
それから、トーキョーコーチョー・・・?
小さい子には何のことやらよくわからなかったが、目から胸までの長さで、「頭胸甲長」というらしい。
ひっくり返してオスメスを見分ける。
交接肢、要するにおちんちんがあるか無いかを見分ける。もちろん、卵があれば即メスだ。
ウチダザリガニの卵は黒い粒つぶだ。
殻の硬さも調べる。脱皮直後であれば、殻が柔らかいのだそうだ。
ウチダザリガニの鎧、いや「殻」は硬い。これではニホンザリガニの小さなはさみでは刃が立たたないのもうなずける。
ザリガニが怖くて掴めない子供もいる。寒さのせいか動きはやや緩慢だ。
かじかんだ手でやっと尾を伸ばしノギスを当てる。体長6.5cm、オス。

ザリガニの見分け方について、バスの中で聞いてみた。
青っぽいのがウチダ、大きいのがウチダ、はさみの又の部分が白いのがウチダ、どれも一応正解。
しかし、実際に掴まえてみるとその区別は案外難しい。特に若齢期のザリガニはどれもよく似ている。
時折、本州西部などから、ニホンザリガニを発見したと報告が寄せられることがあるが
ほぼ間違いなくニホンザリガニではない。
“あれ、どうやってどこを測るんだったっけ?”“おっ、卵を抱えているぞ、こいつはメスだ”
これがみんな結構楽しそう。最大で12cmを超える大物もいた。
はさみがなくなっているヤツもいる。けんかし過ぎたのかなあ。
実はこのツアープログラムは、実は環境省からも認定してもらった駆除活動なのだ。
したがって、いつ、どのくらいの大きさの個体が何匹捕獲されたかをきっちり記録することが大切なのだ。
逆にいうと駆除活動も予め申請しておく必要があるのである。

 慎重に紐を引っ張る / ザリガニ、ゲット! / 記録をとる

 <カニ籠投げにも挑戦>

順序は逆になるが、カニ籠を仕掛ける技にも挑戦する。
環境省の指導に従い、サンマを入れた籠を一人1つずつ持つ。
籠に結わい付けた紐が引っかからないよう注意を促す。足元は浮石がごろごろしていて不安定だ。
みんな水の中に手を入れてびっくり。ものの10秒もしないうちに冷たさに耐えられなくなる。
切れるような冷たさである。
“間違って落ちたらあっという間に死んじゃうからねえ、気をつけてよ~”
ととぼけた口調で言うが、これは落ちたらエライことになる。
通常、子供を水辺に連れ出して遊ばせると、ずぶ濡れになって遊び出すまでそう時間はかからないものだが
この日はさすがに誰一人足を入れようとするものはいなかった。
恐ろしいほどに冷たい水をたたえた湖とそこに静かに暮らすザリガニや魚たち。
人の体温でさえ、彼らにとっては熱すぎることが少しは理解されたであろうか。
ほとんど泳げるほどに水が温むことはないのである。それが道産子にとって身近な自然なのだと改めて実感した。
間もなくこの湖には氷が張り、やがて氷上コタン(アイヌ語で集落の意)が造られるほどの長く厳しい冬が訪れる。
回転しないようにとアドバイスを受けるがこれがなかなか難しい。
サイドスローではどうしても籠が回ってしまう。ジャポン。またジャポン。
カニ籠が次々と湖に投げ入れられていく。
先を争うように我も我もと籠投げに興じる子供たち。ちょっとした漁師気取りだ。
果たしてザリガニはまたかかるのだろうか。

ツアーはこの後、環境紙芝居や環境省職員による解説、ザリガニの試食を兼ねた昼食会と続き
冷えた体を温泉で温めて、無事帰路についたのでした。

 お~、でっかいな / 今度はかご投げに挑戦 / 真っ赤に茹で上がったウチダザリガニ





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