「孫さんキャンプ~幻のさば鮎の謎~」
主催団体 大杉谷自然学校
期間 9月14日~16日

 美しい滝と釜が連続する大杉谷は、大台ケ原山系を源とする渓谷で、宮川ダムからは宮川となって伊勢湾に流れ込む。
 かつては、伊勢湾からアマゴが遡上し、天然鮎も尺物(30cm以上)があがった。この大きな鮎を宮川村では、「サバ鮎」と呼んだ。そしてこのサバ鮎は、「しゃくり」という伝統漁法で獲った。

宮川
 「しゃくり」とは竿先に仕込んだ針で、鮎を引っ掛ける独特の漁法である。網を仕掛けておき、小船で鮎を網に追いこみ「しゃくる」わけだ。「しゃくり」漁は生活の糧であり、宮川村にはほんの50年前までは、多くの漁業従事者がいた。名人と言われる人達もたくさんいた。

しゃくり漁の様子
 しかし、昭和32年に宮川ダムが建設され、そのあと下流にもダムや堰堤がつくられ、鮎やアマゴの遡上はなくなった。ダムの他、森林の荒廃や護岸工事なども加わり、生態系は大きく変化した。現在では、宮川上流漁業協同組合が養殖の鮎やアマゴを放流し、シーズンともなると、地元三重県だけでなく名古屋や、奈良県からも多くの釣り人が訪れる。つまり、いまでは他の多くの地域と同様、観光漁業として渓流釣りが行われている。天然の鮎やアマゴは、ほとんど見られなくなったという。もちろん、サバ鮎は幻の魚となった。

宮川の観察

 この伝統漁法を子ども達に体験してもらい、同時になぜ宮川から天然の鮎やアマゴがいなくなったのかを考える機会をつくろうというのが、この企画の体験型環境教育プログラムの主な内容である。
 宮川の河川敷では村の漁業関係者が、ボランティアで指導にあたっていた。サバ鮎は幻となったが、「しゃくり」は放流魚とはいえ、鮎のいる限り、残していきたいと、力強く語った関係者の言葉が印象的だった。
 子ども達は教えられたとおり、さっそく川に入り「しゃくり」はじめた。養殖の鮎とはいえ、器用な子どもの手にかかれば、次々と面白いように「しゃくり」あげられていた。

しゃくり漁体験

 一方、宮川村は台高山脈の深い谷に刻まれた宮川にそって集落が点在する、典型的な過疎の村だ。人口は約4,000人。老齢化比率は40%とかなり高い。さらに大杉谷自然学校のある大杉谷地区では50%を超えている。このような地域だからこそ、環境学習だけでなく、地域の老人達との交流にも、企画の主眼がおかれているわけだ。そこに「孫さんキャンプ」の名称の由来がある。
 「孫さんキャンプ」は、単に自然を体験するだけでなく、都会で暮らす子どもたちが、自然とともに生きる人々と生活をともにすること。そして、生きる知恵や生活の技術を学ぶとともに、老人から自然観や道徳観を伝えてもらうことも、目的のひとつである。
 これは地域のお年寄りにとっても、孫のような子ども達と過ごすことで生き甲斐ができ、結果として、地域の活性化に役立てればという側面もある。

しゃくり漁の仕掛け

 今回参加した子ども達は17名。学年は小学1年生から6年生までだが、中心は3・4年生。地元三重県内のほか、名古屋、奈良県などからも参加している。リピーターも多く、6名のスタッフとも顔なじみの子ども達も多い。
 2泊3日の日程で、昼間は主に宮川での「しゃくり」漁や、川の生態観察が中心に行われるが、宿泊は民泊である。大杉地区の民家に分宿しする。受け入れるお年寄りは、まるで孫が来たように、嬉々として歓待してくれていると伺った。
 宮川での「しゃくり」体験と環境学習を終えた子ども達は、荷物を持って、それぞれ老人達が待つ民家へと向かって行った。

全員集合