日本経済新聞 1月30日夕刊 記事全文
(日経新聞夕刊より転載。©日本経済新聞社)
■タイトル
安藤スポーツ・食文化振興財団 トム・ソーヤースクール企画コンテスト表彰式&自然体験活動シンポジウム
■見出し
自然体験が育む子どもの未来
■前文
 安藤スポーツ・食文化振興財団(安藤百福理事長)は、昨年度に学校教育法等が改正され、教育現場などで自然体験活動が奨励義務化されたことにあわせ、優れた活動企画を公募・選考するコンテストを実施してきた。子どもたちの心身の健康や創造力を育(はぐく)むとされる、同活動の普及・振興をはかることが狙い。同財団は1月21日に「トム・ソーヤースクール企画コンテスト表彰式・自然体験活動シンポジウム」(後援・文部科学省ほか、協賛・日清食品株式会社)を、財団事務局を置くインスタントラーメン発明記念館(大阪府池田市)で開催し、全国から多くの教育関係者や野外活動指導者が集まった。シンポジウムでは、表彰される優秀団体の活動報告や、パネルディスカッションなどにより、21世紀の日本を再生させる自然体験活動の可能性を探った。

■ メッセージ
文部科学副大臣 河村 建夫氏

新しい教育を求めて


 戦後、日本を立て直すには、まず豊かになることが先でしたから、経済優先でやってきました。その結果、自分さえよければ、お金さえあればいいという時代に変わってきたような気がします。
 そうすると、命の大切さ、倫理観、正義感、あるいは自然を大事にしようということがどこかに落ちてしまった。そこで、今の時代に合った方向で新しい教育のあり方を求めていかなければいけないという声が強く出ているわけです。
 二〇〇二年度から学校も完全週五日制になって、土曜日をどう活用するかが大きな問題です。「トム・ソーヤーの冒険」は子どものときに、必ず出合ってもらいたい本ですが、そういう意味で、あのわくわくどきどきする体験を自分で味わってもらうというトム・ソーヤースクールの企画は本当にすばらしいと思います。安藤財団と関係者の皆さんの取り組みに心から敬意を表し、これからも自然体験活動を広めていただくようにお願い申し上げます。

■ごあいさつ
安藤スポーツ・食文化振興財団理事長
自然体験活動推進協議会顧問 安藤 百福氏

体験学習の先導役に


 二十一世紀は世界経済の低迷、民族や宗教の対立、環境問題など、厳しい状況が続いています。今一番大切なことは、次代を担う少年少女たちの健全な育成です。
 私どもの財団は四月で活動二十周年を迎えますが、子供たちのたくましい成長を願い、各種スポーツ活動の支援事業に取り組んできました。一九九三年に始めた「トム・ソーヤースクール」という自然体験活動もその一環で、野外活動の中で、たくましく成長する子どもたちの姿にいろいろ教えられるものがありました。
 残念ながら、民間団体である当財団として、こうした自然体験活動の支援には限度があるものの、学校教育や社会教育の現場で大きなうねりとなることを念じて活動してきました。健全な青少年を育てるというこの仕事は、指導者の力量で成果が大きく左右されます。全国各地で自然体験活動に取り組まれている指導者の皆様の献身的なご努力に大きな期待を寄せ、子どもたちを導いていただきたいと思います。

安藤スポーツ・食文化振興財団副理事長
日清食品株式会社代表取締役社長 安藤 宏基氏

自活力で日本再生を


 現在の高度文明社会では分業が進み、みんな頼りあって生きています。しかし、これからどうなるのだろう、日本再生の条件は何だろうかと考えるとき、自分だけでも生きていける力、いわば自活力のベースを築くことが大事だと思います。それによって自信が生まれてくるからです。
 また、物質的な欲望を追いかけるばかりではなく、足るを知るという価値観を養成することも大切です。次代を担う若い世代に、自信や新しい価値を育む自然体験活動は大変重要なものがあり、安藤財団として、このような自然体験活動シンポジウムを開催できましたことは、大変有意義であったと感じています。
 シンポジウムでは、二〇〇五年までに自然体験活動がビッグバンの時代を迎えるから、それまでに、高い使命感を持った指導者を育成しなければならないとのご意見がありましたが、引き続き皆様のご努力に期待し、当財団としても、支援させていただきたいと考えております。

■ 記念講演

清水 國明氏 自然暮らしの会代表・タレント

生きる力生む
私の感動体験


 僕は生まれが福井県の山奥ですから、自然の中で遊んでいるときが、一番、心が安らぎますね。自称、アウトドアの達人です。バブルもはじけて、物を持つことよりも何かする時代がやってきました。心の時代です。
 今、子どもが三人おりまして、上二人が高校生、下が小学生、全部女です。その女の子に囲まれて、どうも夫として、男として、父親としての出番が少ない。その不自然さを解消するために、私が自然という自分の得意な土俵へ家族を連れて行くと、おお、パパすごいって、初めて僕の方を見てくれます。それで、いろんなところでキャンプもするようになると、一つのたき火を囲んで、寒いとか、暑いとか、つらいねと言いながら感じ合うきずなに、ああ、これが家族だと思わせるものがありました。
 過酷なアウトドア体験もしています。上の子が生まれて、次の子が生まれる前に一年間家族連れで、キャンピングカー生活を全国でやってました。そういうところから家に戻ってくると、世の中の便利さ、快適さにびっくりするんですね。同時に電気がある、水が出ると感謝もするわけです。
 世の中、どんどん便利になっていったから、その途中で生まれた子どもたちは、原点を知らず、もうきりがないんです。「もっともっと病」という病気です。ところが、自然体験をすることによって、今ある幸せに気がつく。
 物をいっぱい持つ、有名になる、おいしいものをいっぱい食べるということだけではなくて、自然体験を繰り返して、大きな感動を、いくつも味わう方がもっといい気がするんです。
 アウトドアは楽なものではありません。あえてしんどい目にあわすことで感動に出合えるんです。
 我が家ではマイナス四十度のアラスカで、十日間キャンプをし、本物のオーロラを見た半年後には、赤道直下のミクロネシアの無人島で十日間、釣った魚とチキンラーメンだけで過ごしてきました。ちょっと極端だったかもしれませんが。
 子どもに生きる力を植えつけるためには、苦しみを楽しみに変えられるような体質にしておくのが大事なことだと思います。子どもでも、大人でも、自然の中で、それを楽しむためのノウハウを、みんな持っているわけです。それに気づかすための刺激、チャンスをどれだけ与えるかが我々の使命ではないでしょうか。

(しみず・くにあき)1950年福井県生まれ。自然暮らしの会代表。芸能界きってのアウトドア派。テレビ・ラジオ・新聞・雑誌などで幅広く活躍。自然体験イベントや講演活動も多い。

■講 評

岡島 成行氏 大妻女子大学教授

170団体が応募
優れた指導力


 現在の日本の改革の中で、教育改革がありますが、戦後の日本の教育について、子どもと自然の関係を少しおろそかにしてきたのではないかということが指摘されています。一見、子どもが自然の中で遊ぶということは、たいしたことのないように思われるでしょうが、今の日本の状況を考えて、戦後六十年の日本の体制をいろんな形で改革していくことを考えると、子どもの自然体験は、案外、国をつくっていく、国を変えていくために最も必要なものの一つではないかと考えています。
 自然体験を進めることは、そのように国にとっても非常に重要だと私どもは考えており、そういう空気が徐々に強くなっているところで、今回のコンテストが行われたことは非常に大きな意味があると思います。
 今回、百七十の応募がありました。その中から、一次審査で三十団体を選ばせていただき、その三十の中から二次審査を行い、三団体が選ばれました。
 最優秀の中幡小学校は、どう考えても、杉原校長先生のご努力のたまものだと思います。公立の、東京のど真ん中の学校で、自然体験を進めるには数々の困難が伴います。山に行って遊ぶ暇があったら、もっと勉強して私立のいい中学校に行かせたいという親御さんもたくさんいる中で、敢然として飯田市の山の中に毎年子どもたちを連れて行って、子どもたちの味方としてやってこられた。かつ森をつくるという継続性を持ったことが非常に高い評価になりました。
 準優秀の大雨河小学校は幼稚園と一緒にやっていることも非常に大きな特徴です。今の子どもたちは異年齢と遊ぶ機会が大変少なくなってきていますが、大きい子と小さい子が一緒に楽しく遊べる、忍者のまねをしながら川に潜ったり、いろんなことをやりながら、抵抗なく自然体験に入れる工夫を凝らしている。その中で昔と同じような形で、自然体験の知恵と技術をみんなが身につけていったところが、評価されました。
 奨励賞の大杉谷自然学校は山また山の中を車で走って、やっとたどり着くような過疎の村です。そこで生まれ育った大西さんが、やはりこの過疎の村で住みたいんだと、あの手この手を考えて、自然学校という村で生きていく方法を考える。その心意気と、山に残っているおじいちゃん、おばあちゃんと交流するユニークなキャンプをやった。その点が評価されました。

(おかじま・しげゆき)1944年横浜市生まれ。環境ジャーナリスト、大妻女子大学教授。社団法人・日本環境教育フォーラム専務理事、自然体験活動推進協議会代表理事。

● 一次審査入選の30団体(※は二次審査での佳作受賞団体)

1 いわき自然史研究会(福島県いわき市)
2 農業小学校をつくる会(滋賀県朽木村)
3 渋谷区立中幡小学校(東京都渋谷区)
4 NPO法人岩国子ども劇場(山口県岩国市)
5 和歌山県立自然博物館(和歌山県海南市)
6 オークビレッジジュニアサマーキャンプ(岐阜県清見村)
7 福井県子どもNPOセンター(福井県福井市)
8 NPO法人ブレーンヒューマニティー(兵庫県西宮市)
9 学童保育&フリースペース げんこつ組(東京都三鷹市)
10 米沢市立万世小学校 トンボ自然観察隊(※)(山形県米沢市)
11 冒険教育を推進する会(長野県北安曇郡)
12 岡山大学教育学部付属中学校 森林プロジェクト(※)(岡山県岡山市)
13 ウィズネイチャー(兵庫県神戸市)
14 清里ワンパクスクール(※)(山梨県高根町)
15 静岡県河津町南小学校5年1組(静岡県河津町)
16 日本宇宙少年団さくら分団(東京都文京区)
17 NPOレクリエーションアクティブなわて(大阪府四条畷市)
18 かつやま子どもの村小中学校(福井県勝山市)
19 総合レクリエーション工房チャイルドハート だいなまいとキャンプ実行委員会(大阪府高槻市)
20 厨子ヨット協会(神奈川県逗子市)
21 三川村立自然学校 自然アカデミー(新潟県三川村)
22 高木学校(東京都中野区)
23 八ヶ岳を駆け抜けろ!MTBツーリング(東京都狛江市)
24 PALPAL交流岩手推進本部(岩手県千厩町)
25 環境冒険国際サマーキャンプ実行委員会(※)(神奈川県茅ヶ崎市)
26 愛知県額田町大雨河小学校 みつわっ子エコクラブ(愛知県額田町)
27 興部町レクリエーション協会(北海道興部町)
28 市民Zooネットワーク(東京都杉並区)
29 大杉谷自然学校運営協議会(三重県宮川村)
30 財団法人青少年野外活動振興財団(北海道札幌市)

● 最優秀賞 渋谷区立中幡小学校(東京都)

ドングリ育て森づくり
自然創生サイクル実感


〈概要〉名称=飯田自然体験学習。対象=六年生全員五十八人。指導者=同校教諭、地域の専門家。
〈内容〉本校は都庁が見える大都会の真ん中にあるが、百坪(三百三十平方