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日本経済新聞 1月30日夕刊 記事全文 (日経新聞夕刊より転載。©日本経済新聞社)
■タイトル安藤スポーツ・食文化振興財団 トム・ソーヤースクール企画コンテスト表彰式&自然体験活動シンポジウム ■見出し 自然体験が育む子どもの未来 ■前文 安藤スポーツ・食文化振興財団(安藤百福理事長)は、昨年度に学校教育法等が改正され、教育現場などで自然体験活動が奨励義務化されたことにあわせ、優れた活動企画を公募・選考するコンテストを実施してきた。子どもたちの心身の健康や創造力を育(はぐく)むとされる、同活動の普及・振興をはかることが狙い。同財団は1月21日に「トム・ソーヤースクール企画コンテスト表彰式・自然体験活動シンポジウム」(後援・文部科学省ほか、協賛・日清食品株式会社)を、財団事務局を置くインスタントラーメン発明記念館(大阪府池田市)で開催し、全国から多くの教育関係者や野外活動指導者が集まった。シンポジウムでは、表彰される優秀団体の活動報告や、パネルディスカッションなどにより、21世紀の日本を再生させる自然体験活動の可能性を探った。 ■ メッセージ 新しい教育を求めて 戦後、日本を立て直すには、まず豊かになることが先でしたから、経済優先でやってきました。その結果、自分さえよければ、お金さえあればいいという時代に変わってきたような気がします。 そうすると、命の大切さ、倫理観、正義感、あるいは自然を大事にしようということがどこかに落ちてしまった。そこで、今の時代に合った方向で新しい教育のあり方を求めていかなければいけないという声が強く出ているわけです。 二〇〇二年度から学校も完全週五日制になって、土曜日をどう活用するかが大きな問題です。「トム・ソーヤーの冒険」は子どものときに、必ず出合ってもらいたい本ですが、そういう意味で、あのわくわくどきどきする体験を自分で味わってもらうというトム・ソーヤースクールの企画は本当にすばらしいと思います。安藤財団と関係者の皆さんの取り組みに心から敬意を表し、これからも自然体験活動を広めていただくようにお願い申し上げます。 ■ごあいさつ 自然体験活動推進協議会顧問 安藤 百福氏 体験学習の先導役に 二十一世紀は世界経済の低迷、民族や宗教の対立、環境問題など、厳しい状況が続いています。今一番大切なことは、次代を担う少年少女たちの健全な育成です。 私どもの財団は四月で活動二十周年を迎えますが、子供たちのたくましい成長を願い、各種スポーツ活動の支援事業に取り組んできました。一九九三年に始めた「トム・ソーヤースクール」という自然体験活動もその一環で、野外活動の中で、たくましく成長する子どもたちの姿にいろいろ教えられるものがありました。 残念ながら、民間団体である当財団として、こうした自然体験活動の支援には限度があるものの、学校教育や社会教育の現場で大きなうねりとなることを念じて活動してきました。健全な青少年を育てるというこの仕事は、指導者の力量で成果が大きく左右されます。全国各地で自然体験活動に取り組まれている指導者の皆様の献身的なご努力に大きな期待を寄せ、子どもたちを導いていただきたいと思います。 安藤スポーツ・食文化振興財団副理事長 日清食品株式会社代表取締役社長 安藤 宏基氏 自活力で日本再生を 現在の高度文明社会では分業が進み、みんな頼りあって生きています。しかし、これからどうなるのだろう、日本再生の条件は何だろうかと考えるとき、自分だけでも生きていける力、いわば自活力のベースを築くことが大事だと思います。それによって自信が生まれてくるからです。 また、物質的な欲望を追いかけるばかりではなく、足るを知るという価値観を養成することも大切です。次代を担う若い世代に、自信や新しい価値を育む自然体験活動は大変重要なものがあり、安藤財団として、このような自然体験活動シンポジウムを開催できましたことは、大変有意義であったと感じています。 シンポジウムでは、二〇〇五年までに自然体験活動がビッグバンの時代を迎えるから、それまでに、高い使命感を持った指導者を育成しなければならないとのご意見がありましたが、引き続き皆様のご努力に期待し、当財団としても、支援させていただきたいと考えております。 ■ 記念講演 生きる力生む 私の感動体験 僕は生まれが福井県の山奥ですから、自然の中で遊んでいるときが、一番、心が安らぎますね。自称、アウトドアの達人です。バブルもはじけて、物を持つことよりも何かする時代がやってきました。心の時代です。 今、子どもが三人おりまして、上二人が高校生、下が小学生、全部女です。その女の子に囲まれて、どうも夫として、男として、父親としての出番が少ない。その不自然さを解消するために、私が自然という自分の得意な土俵へ家族を連れて行くと、おお、パパすごいって、初めて僕の方を見てくれます。それで、いろんなところでキャンプもするようになると、一つのたき火を囲んで、寒いとか、暑いとか、つらいねと言いながら感じ合うきずなに、ああ、これが家族だと思わせるものがありました。 過酷なアウトドア体験もしています。上の子が生まれて、次の子が生まれる前に一年間家族連れで、キャンピングカー生活を全国でやってました。そういうところから家に戻ってくると、世の中の便利さ、快適さにびっくりするんですね。同時に電気がある、水が出ると感謝もするわけです。 世の中、どんどん便利になっていったから、その途中で生まれた子どもたちは、原点を知らず、もうきりがないんです。「もっともっと病」という病気です。ところが、自然体験をすることによって、今ある幸せに気がつく。 物をいっぱい持つ、有名になる、おいしいものをいっぱい食べるということだけではなくて、自然体験を繰り返して、大きな感動を、いくつも味わう方がもっといい気がするんです。 アウトドアは楽なものではありません。あえてしんどい目にあわすことで感動に出合えるんです。 我が家ではマイナス四十度のアラスカで、十日間キャンプをし、本物のオーロラを見た半年後には、赤道直下のミクロネシアの無人島で十日間、釣った魚とチキンラーメンだけで過ごしてきました。ちょっと極端だったかもしれませんが。 子どもに生きる力を植えつけるためには、苦しみを楽しみに変えられるような体質にしておくのが大事なことだと思います。子どもでも、大人でも、自然の中で、それを楽しむためのノウハウを、みんな持っているわけです。それに気づかすための刺激、チャンスをどれだけ与えるかが我々の使命ではないでしょうか。 (しみず・くにあき)1950年福井県生まれ。自然暮らしの会代表。芸能界きってのアウトドア派。テレビ・ラジオ・新聞・雑誌などで幅広く活躍。自然体験イベントや講演活動も多い。 ■講 評 170団体が応募 優れた指導力 現在の日本の改革の中で、教育改革がありますが、戦後の日本の教育について、子どもと自然の関係を少しおろそかにしてきたのではないかということが指摘されています。一見、子どもが自然の中で遊ぶということは、たいしたことのないように思われるでしょうが、今の日本の状況を考えて、戦後六十年の日本の体制をいろんな形で改革していくことを考えると、子どもの自然体験は、案外、国をつくっていく、国を変えていくために最も必要なものの一つではないかと考えています。 自然体験を進めることは、そのように国にとっても非常に重要だと私どもは考えており、そういう空気が徐々に強くなっているところで、今回のコンテストが行われたことは非常に大きな意味があると思います。 今回、百七十の応募がありました。その中から、一次審査で三十団体を選ばせていただき、その三十の中から二次審査を行い、三団体が選ばれました。 最優秀の中幡小学校は、どう考えても、杉原校長先生のご努力のたまものだと思います。公立の、東京のど真ん中の学校で、自然体験を進めるには数々の困難が伴います。山に行って遊ぶ暇があったら、もっと勉強して私立のいい中学校に行かせたいという親御さんもたくさんいる中で、敢然として飯田市の山の中に毎年子どもたちを連れて行って、子どもたちの味方としてやってこられた。かつ森をつくるという継続性を持ったことが非常に高い評価になりました。 準優秀の大雨河小学校は幼稚園と一緒にやっていることも非常に大きな特徴です。今の子どもたちは異年齢と遊ぶ機会が大変少なくなってきていますが、大きい子と小さい子が一緒に楽しく遊べる、忍者のまねをしながら川に潜ったり、いろんなことをやりながら、抵抗なく自然体験に入れる工夫を凝らしている。その中で昔と同じような形で、自然体験の知恵と技術をみんなが身につけていったところが、評価されました。 奨励賞の大杉谷自然学校は山また山の中を車で走って、やっとたどり着くような過疎の村です。そこで生まれ育った大西さんが、やはりこの過疎の村で住みたいんだと、あの手この手を考えて、自然学校という村で生きていく方法を考える。その心意気と、山に残っているおじいちゃん、おばあちゃんと交流するユニークなキャンプをやった。その点が評価されました。 (おかじま・しげゆき)1944年横浜市生まれ。環境ジャーナリスト、大妻女子大学教授。社団法人・日本環境教育フォーラム専務理事、自然体験活動推進協議会代表理事。 ● 一次審査入選の30団体(※は二次審査での佳作受賞団体) 1 いわき自然史研究会(福島県いわき市) 2 農業小学校をつくる会(滋賀県朽木村) 3 渋谷区立中幡小学校(東京都渋谷区) 4 NPO法人岩国子ども劇場(山口県岩国市) 5 和歌山県立自然博物館(和歌山県海南市) 6 オークビレッジジュニアサマーキャンプ(岐阜県清見村) 7 福井県子どもNPOセンター(福井県福井市) 8 NPO法人ブレーンヒューマニティー(兵庫県西宮市) 9 学童保育&フリースペース げんこつ組(東京都三鷹市) 10 米沢市立万世小学校 トンボ自然観察隊(※)(山形県米沢市) 11 冒険教育を推進する会(長野県北安曇郡) 12 岡山大学教育学部付属中学校 森林プロジェクト(※)(岡山県岡山市) 13 ウィズネイチャー(兵庫県神戸市) 14 清里ワンパクスクール(※)(山梨県高根町) 15 静岡県河津町南小学校5年1組(静岡県河津町) 16 日本宇宙少年団さくら分団(東京都文京区) 17 NPOレクリエーションアクティブなわて(大阪府四条畷市) 18 かつやま子どもの村小中学校(福井県勝山市) 19 総合レクリエーション工房チャイルドハート だいなまいとキャンプ実行委員会(大阪府高槻市) 20 厨子ヨット協会(神奈川県逗子市) 21 三川村立自然学校 自然アカデミー(新潟県三川村) 22 高木学校(東京都中野区) 23 八ヶ岳を駆け抜けろ!MTBツーリング(東京都狛江市) 24 PALPAL交流岩手推進本部(岩手県千厩町) 25 環境冒険国際サマーキャンプ実行委員会(※)(神奈川県茅ヶ崎市) 26 愛知県額田町大雨河小学校 みつわっ子エコクラブ(愛知県額田町) 27 興部町レクリエーション協会(北海道興部町) 28 市民Zooネットワーク(東京都杉並区) 29 大杉谷自然学校運営協議会(三重県宮川村) 30 財団法人青少年野外活動振興財団(北海道札幌市) ● 最優秀賞 渋谷区立中幡小学校(東京都) ドングリ育て森づくり 自然創生サイクル実感 〈概要〉名称=飯田自然体験学習。対象=六年生全員五十八人。指導者=同校教諭、地域の専門家。 〈内容〉本校は都庁が見える大都会の真ん中にあるが、百坪(三百三十平方。)を超える畑を持っているので、その畑を「命の教育の場」と位置づけて、各学年が計画的に野菜を栽培・収穫している。 今回、評価していただいたのは、命の教育の一環として行なっている、長野県飯田市の郊外にある「大平宿」という廃村をベースに、便利で快適な都会での生活から一変した、まき割りから飯炊きまですべて自分たちでやらなければ生きていけない生活を体験する自然体験学習である。その中に、飯田市で採集したドングリを持ち帰って育てた苗を、再び飯田市内に植樹し、森づくりを進める構想がある。二十年後、三十年後、自分たちの子どもと一緒に、この森でカブトムシを追いかけ、木陰で憩うという遠大な計画である。「大平宿」での生活は、助け合わなければ何もできないという場が必然的に設定されるから、子どもたちの心身はたくましく鍛えられる。(校長 杉原五雄) ● 準優秀賞 額田町立大雨河小学校(愛知県) 学校周辺の自然生かし 忍者になぞらえて遊ぶ 〈概要〉名称=夢と冒険の忍者キャンプ―ふるさと大雨河の山と川で遊び、学ぶ、子供が変わる六日間。対象=同校全児童十四人、三好桃山幼稚園卒園児童四十四人。指導者=同校教諭、その他。 〈内容〉「ぼくたちをかえた!」子どものこの言葉が忍者キャンプを物語っている。それは大雨河の山と川と田んぼという里山の自然を舞台に、都市と農村の交流を生み出す画期的なキャンプだった。@水とんの術=川遊び、魚捕り、露天風呂、ドラム缶ぶろA木とんの術=山遊び、木登り、ロープワークB火とんの術=毎夜のグループファイヤー、炭焼き体験C地域の食生活術=そば打ち体験、流しそうめん――など、子どもが忍者になりきり、楽しみながら冒険心や好奇心を呼び起こす活動が満載だ。 遊びと学びを同居させ、子ども主体の活動が連続することで、たくましさと自信を育み、人間的な成長をもたらした。五泊六日の長丁場を乗り越えていった原動力は、自然の持つ教育力と子どもが本来持つ人間力、そしてスタッフの団結力である。(教務主任 荻野嘉美) ● 奨励賞 大杉谷自然学校運営協議会(三重県宮川村) 高齢者との交流通じて アユの伝統漁法を体験 〈概要〉名称=孫さんキャンプ―幻のサバ鮎の謎。対象=一般参加者による児童十七人。指導者=同校スタッフ、その他。 〈内容〉「田舎のおじいちゃん、おばあちゃんのところで過ごすような休み」を子どもたちに体験してもらうことをコンセプトにした宿泊型自然体験活動である。五十年前にはたくさんとれたといわれる「サバ鮎(アユ)」(サバの大きさの鮎)がなぜいなくなったかという謎(なぞ)を解くため、子どもたちが地域に出て行って聞き取り調査をしたり、地元の漁師から伝統漁法を教わり実際川に潜って鮎漁に挑戦したりした。 現在も清流を誇る宮川だが、ダム建設や源流の森林の荒廃などにより、本当に美しかった本物の宮川は、地元の人々の記憶にしか残っていない。一見、美しい川にひそむ様々な問題を実際に地域の人とかかわりながら、子どもたちが宮川の自然を思う存分楽しむこと、地域の人とのコミュニケーションの面白さに気づくこと、自然を愛し守ることの大切さを学ぶきっかけを作ることがキャンプの狙いであった。(大西かおり) ■写真説明 活動報告をする杉原校長 ■パネルディスカッション 自然体験活動の課題と展望 ○パネリスト 佐藤 初雄氏 国際自然大学校代表清水 國明氏 自然暮らしの会代表 大西かおり氏 大杉谷自然学校代表 ○コーディネーター 岡島 成行氏 大妻女子大学教授 2005年にビッグバン 佐藤氏 積極的な行政支援を 大西氏 過疎の村の起爆剤に 清水氏 大量の指導者養成を 岡島氏 岡島 自然体験活動の問題点とどうしたらそれを解決できるかという二つの点に大きく分けて議論を進めたいと思います。最初に、佐藤さん、大西さんに、ご自身がやってきた自然体験活動についてお話しいただきたいと思います。 佐藤 私どもの国際自然大学校も今年でちょうど二十周年を迎えます。現在はNPO(非営利組織)として、山梨、群馬、東京を拠点にして、年間で延べ三万人ほどの参加者数で活動しています。スタッフは見習いの実習生も含め二十人でやっています。 いきなりこんなことを言っていいかどうかわかりませんが、私たち大人がこんな余計なおせっかいをしていいんだろうかと思っています。たぶん私よりも年齢が上か、近い年代の人たちは、自分で勝手に自然体験をしていました。徒党を組み、いいことも悪いこともしていたんですが、そんな子供社会はもうなくなってしまいました。 よく若い人たちに、どうして国際自然大学校を始めたのか、将来はどういうことを考えているのか聞かれます。逆説的に申し上げると、国も含めて、国民全体が自然体験など学習する必要はないという時代になることが、実は理想です。それだけ大人が自然体験の機会をつくってあげなければならない本当に厳しい状況じゃないかということで、この国際自然大学校を設立しました。 こういう自然体験活動はそれまではボランティア活動でやられていましたが、ボランティアでやる活動には限界がありました。そこで、プロとして活動はできないだろうかと始めたのですが、設立当初は、ほとんど経営が成り立ちませんでした。当時はお金を出してまで参加しようという社会じゃなかったんですね。ところが三年、五年実績を積むと、存在が目立ってくるんです。すると、そこに参加をさせた親が、あそこへ行かせるとすごくおもしろそうだ、子供もすごく喜んで帰ってくるということで、私たちの活動が成り立つようになりました。 問題は何か考えると、三つのPがあります。一つ目のPはプレイス、場所です。場所やフィールドがないと自然体験はできません。二つ目がプログラムです。今の子どもたちは、自然の中で、一人ではほとんど何もできません。何か仕掛けをつくってあげなきゃいけない。三つ目はパーソン、人です。この分野では、指導者の能力がすべてです。 私は二〇〇五年に、自然体験活動のビッグバン、さらなる発展が起きると予測しています。それを引っ張る人材を、あと二、三年後までに養成できるかどうかですね。 大西 私は三重県宮川村の山のふもとで自然学校をやっております。設立してから二年目の若いできたての自然学校です。宮川村は大杉谷渓谷という、国の天然記念物に指定されている自然豊かな村ですが、林業も不景気で、産業としてはもう成り立たなくなっています。村には今、産業がないんです。みんな都会に行ってしまいました。結果として、自然学校のある大杉谷地区は、高齢化率が五〇%ぐらいあるような村になってしまいました。 私は村出身で、ふるさとが大好きで、絶対、村に住もうと思いました。いろいろ考えましたが、結果として自然を生かして、過疎化という一見不利な状況を生かして自然学校をつくろうと、村に帰って、二年がたちました。とりあえずやってみようということでしたが、これまでは成功を収めています。 やっていることは、子どものキャンプ、川遊び、それから大人向けには、豊かな自然を生かして、登山などを企画しています。あとは植生調査、地域の記録、調査保護活動などもしています。 私たちの看板キャンプは、今回、奨励賞に選んでいただいた「孫さんキャンプ」です。都会の子供たちが来てですね、泊まるところは、地元のおじいちゃん、おばあちゃんの家に民泊します。そして、その地元の方たちの生きるすべ、日本人が今はもう忘れかけてしまっているような価値観に触れながら、川や山で自然体験をするというものです。 岡島 清水さん、お二人のお話を聞いて、何か、つけ足すようなことがあれば、お願いします。 清水 僕らが子どものときはほっときゃよかったんですが、今はほっといたら家の中にこもってしまいます。外よりも家の中がすごく楽しくなってしまったし、ゲームなど引きこもりのための道具を親やおじいちゃん、おばあちゃんが買い与えていますね。 岡島 初級クラスの最初の指導者はいいんですが、何人か使って指導したり、それからプログラムをつくったりですね、さらには営業のようなこともやるクラスになると、非常に少ないという佐藤さんの指導者不足の説、私も同感です。それから大西さんが指摘した過疎、村おこしの問題。これらを考えていきたと思います。 佐藤 ここに来て、ずいぶんと大学の中にも専攻コースができたり、あるいは専門学校もでき始めたりしています。そうすると、サラリーマン的というか、仕事を得るために自然学校に来る若い人たちが増えてくるんです。つまり、子どもたちと一緒になって何かやりたいという、そういう強い思いみたいなのがちょっとどこかへ行ってしまうんですね。 岡島 指導者の養成というのは、なかなか思うようにはいきません。それから、お話がありましたが、二〇〇五年ごろに、日本中の自治体とか大きな会社が自然学校をつくるんですね。百人単位で指導者が必要になってくると、とても足りません。 清水 どんな指導者が欲しいのかというと、そういうことを一番好きな、そこの達人を育てるわけですから、今、我々が教えている生徒の中から指導者をやってもらわなきゃいけません。このアウトドア、自然体験のニーズというのは、詰め込み教育の反省から来ているわけですから、大学などで養成して、いろんな知識を頭に詰め込んだ人が来たら、これが何という鳥ですよ、何という植物ですよという物知り博士が指導者になってしまう。テストを受けて指導者になった人というのは、子どもたちは魅力を感じないと思います。 岡島 大西さんのところでは、指導者はどういう人たちがやっているんですか。 大西 地元の方が講師として、子どもたちにいろいろ教えてくださっています。例えば、今回の「幻のサバ鮎の謎」というテーマで行った孫さんキャンプでも、若いスタッフでは伝統的な鮎を取る漁法を教えることができないんですね。ですから、本物を教えてもらうために地元の方に積極的に来てもらって、子供たちとコミュニケーションをとりながら、本物のところを学んでもらうということをしています。 佐藤 やっぱり指導者は必要で、そのためにジレンマを感じつつも、やはりどうにかして養成をしていかなければならないだろうと思います。マネジャー、プロデューサークラスをどう育てるか考えたときに、やはり五年、十年かけてゆっくりと育てることができればいいんですが、実際はそうはなりませんので、私たちも私たちなりに努力して、カリキュラムをつくって養成していこうという思いでいます。 岡島さんも私も、日本環境教育フォーラムというところで、プロの自然学校の指導者の養成制度を四年前から始めました。マネジャークラスの養成制度もつくろうということで、大学とうまく連携をとりながら、そして我々のような民間団体とも単位の互換みたいなものもできないだろうか模索しています。 ただ、この部分は本当に我々民間がやらなきゃいけないのかという疑問はついて回ります。本来なら、国がやるべき仕事じゃないかということですね。 岡島 アメリカやイギリス、フランス、ドイツ、先進各国では、国、民間、そして大学にもたくさんの講座があります。日本には三つほどの大学にしかまだありません。ただ、皆さんがどんどん自然体験したいというようになれば、そういう声とともに、いろんな新しい形の養成講座も出てくるのかなと期待しています。 さて、村おこしですが、大西さん、いいアイデアはありますか。自然学校が収入源になって、村にお金を落とすとか。 大西 民間がやることなのかどうかというお話がありましたが、私たちの学校は完全な民間ではなく、宮川村の教育委員会から補助金をいただいています。そうしないと、自然学校で、プロの人材を雇用できません。それでも実はまだ足りずに、一般の参加者から参加費を取ったり、行政関係の自然体験活動事業を受託して資金源をつくったりしている状況です。すごく大きな観光地で、もともと人の交流があるところとか、集客力がある地域であれば、完全に民間の自然学校も可能ではないかなと思っています。 清水 お年寄りが多いなら、そのお年寄りが喜ぶようなものをつくる。全国から、うわー、あの村いいなと言って、お年寄りが集まってきたら、にぎやかな村になって、シルバー産業も起きて、若者の雇用も増えますよ。 だから、まず地元のお年寄りをやる気にさせるような、楽しいもの、毎朝お年寄りのところにミミズ届けて魚釣りに行ってもらったり、草むしりしてもらったりというようなことが、村おこしにつながります。 岡島 最後に、ぜひこれは言っておきたいということをお願いします。 佐藤 過疎と過密の問題については、価値観の大変革が起こらないといけないだろうと思います。お金による価値ではなく、新しい価値とは何なのかということを、特に自然学校にかかわる人たちが具現化していくということを強く期待したいですね。 さらに、過疎地でやっている自然学校をスタッフ一人が年収三百万円ほどで済むような、大都会に影響を受けずに地域社会で完結するような仕組みができないだろうかと考えています。これから自然学校を展開していく上で、長期の方向性ではないかと思います。 大西 私たちも、年収で三百万円ぐらいを目指したいなと、同じように思っています。今、非常勤も含め職員が六人います。都会で働けば、もっと高収入を得られますが、過疎地でお金ではない別の大切なものを得て生きていけるような世界が来たらいいなと思って、自然学校をこれからもやっていきたいですね。 清水 自然に近い過疎の村が、第一に自信を回復しないといかん。今、完全にこびてますからね。一つの方策として、鎖国をしたらどうかと思います。田舎はお金を欲しいがために、都会に作物を届けてますが、都会はそこで生み出すものは何もないんですよ。鎖国されたら、都会は三日も持たないと思います。それで、助けてくれって、ひざまずかしておいてから対等な交渉をする必要がありますね。 僕はログハウスをつくっていますが、都会の人が好むんですよ。本当は、材木屋さん、林業の人が、大きなログハウスをつくって、胸を張っていることの方が大事ですが、田舎の人ほど新建材の家を建てたがります。それは違う。そういうあたりを改めていく必要がある。自信回復こそが大事だと思います。 岡島 皆さん、本日は、たいへん有意義なお話をありがとうございました。 ○略歴 佐藤初雄氏(さとう・はつお) 1956年東京生まれ。国際自然大学校代表。社団法人・日本環境教育フォーラム理事、自然体験活動推進協議会副代表理事。日本の野外活動の実践的指導の第一人者。 大西かおり氏(おおにし・かおり) 1972年三重県生まれ。大杉谷自然学校代表。2001年出身地の宮川村に夢であった大杉谷自然学校を開く。地域交流や高齢化した過疎村の活性化にも取り組む。 |